東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8166号 判決 1969年11月19日
原告
小川章太郎
ほか一名
代理人
藤田信祐
被告
東京礦油株式会社
代理人
神田洋司
ほか一名
主文
被告は原告小川章太郎に対し金一、三二六、九二〇円および内金一、二〇六、九二〇円に対する昭和四三年七月三一日以降支払い済みにいたるまで年五分の割合による金員、原告小川アヤ子対し金一、二一八、〇〇〇円および内金一、一〇八、〇〇〇円に対する昭和四三年七月三一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告の、各負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実《省略》
理由
一、請求原因第一項(一)ないし(四)、(六)の事実は当事者間に争いがなく、同第二項(一)の事実、(二)のうち訴外鈴木の過失の点を除き当事者間に争いがない。
二、<証拠>によれば次の事実が認められる。
(一) 本件道路は国道五〇号線のバイパスで、事故当時一部再舗装工事が終つていないため開通していなかつたが、一部の工事個所を除き通行可能なため各種車輛は以前から現場道路を通行していた。現場付近の道路は歩車道の区別がなく幅員15.1米のコンクリート舗装がなされており、直線で、見透しはきわめてよく、路面にはセンターラインの標示はなく、公安委員会の交通規制はなされていない。
(二) 訴外鈴木は甲車を運転し時速約七〇粁前後で本件道路左側を西進中、事故現場より約二〜三〇〇米手前で道路の左端を同方向に進んでいる訴外亮太郎の自転車を発見し、そのまま進行し、一〇〇米位に接近したとき、右自転車は子供用でこれに乗つた者は男の子供であることが判つた。このとき自転車は後方を見ず中央に向つて進み出したので道路の右側に行つてしまうものと思い、そのまま道路中央近くを進行していつた。このとき自転車との関隔が五〜六〇米であつたが、自転車は中央辺りを進むと思い警音器をならすこともなく、そのままの速度で進行した。自転車は道路中央付近を多少体をゆすつてジグザグしながら西進しはじめ、間もなく後をふりかえつたと思うとすぐに左側の甲車進路に入つて来た。このとき約二〇米に接近していたので鈴木はハンドルを左に切り急ブレーキをかけたがハンドルの自由を失い、横すべりしながら約二五米進んだところで甲車の右側ドア付近を自転車に衝突させ、さらに九米位進んで道路左側の縁石に衝突し甲車を横転させた。
(三) 訴外亮太郎は右自転車に乗り道路左側を進行から中央付近に出、その辺りでジクザクしながら進行し、後方をふりかえつたが、そのまま再び道路左側に入つて来、右のとおり甲車に衝突された。
右認定事実によれば訴外鈴木には進路を同方向に進む子供の自転車が道路左側から右側に行つたり中央辺りを進行したりしているのを発見したのであるから直ちに警音器を吹鳴し、減速徐行し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれに違反した過失があり、訴外亮太郎には後方の安全を確認することもなく、進路を変える合図をすることもなく甲車の進路に入つて来た過失が認められ、両者の過失の割合は訴外鈴木七対訴外亮太郎三と認めるのが相当である。
三、(一) <証拠>によれば原告章太郎は亮太郎の葬儀費屍体検案料等として一四〇、三一五円を支払つたこと、本件事故により自転車が破損されたが、右は購入して一、二年乗つた物であることが認められ当時の価格は三、〇〇〇円程度と推認される。
(二)(1) 訴外亮太郎は昭和三三年一二月二八日生の当時九歳であつたことは当事者間に争いがなく、第一一回生命表によれば同年令の男子の平均余命は59.53年であること、労働省労働統計調査部編昭和四二年賃金センサス第一巻第一表によれば、全産業(企業規模一〇人以上)労働者の男子一人当りの一ケ年の平均給与額(平均月間定期給与額四二、八〇〇円に一二を乗じたものに、平均年間賞与その他特別給与額一一九、二〇〇円を加算したもの)は六三二、八〇〇円であることが認められる。亮太郎は二〇歳に達した頃から六〇歳に達する頃までの四〇年間、右金額程度の収入を得続けたであろうと考えられる。
ところで、同人の生活費としては、右収入の五割程度と考えるのが相当であるので、これを控除すると、同人が得たであろう年間純益は三一六、四〇〇円となるところ、同人は本件事故によりこれを失つてしまつた。そこで右金額を基礎にしてホフマン式(複式、年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡時における現価を求めると五一八万円(一万円未満切捨)となる。
316,400×(51年の係数24.9836
−11年の係数8.5901)=5,186,871
(2) 原告章太郎同アヤ子が亮太郎の父、母であること当事者間に争いがないので、原告らは相続により前記亮太郎の逸失利益の損害賠償請求権の各二分の一にあたる各二五九万円を承継取得したと認められる。
(三) 従つて、原告章太郎の慰藉料を除く損害は(一)(二)を合わせ二、七三三、三一五円となり、原告アヤ子の慰藉料を除く損害は(二)の二五九万円となるところ、二に認定した亮太郎の過失を斟酌すれば原告章太郎は一、九一三、三二〇円、同アヤ子は一、八一三、〇〇〇円となる。
(四) 本件事故により原告らは愛児を失い多大の精神的苦痛を受けたことは明らかであるが、本件事故の態様、亮太郎の過失等一切の事情を斟酌し原告らの受くべき慰藉料は各一〇五万円をもつて相当と認める。
(五) 被告は、亮太郎の二〇歳に達するまでの生活費、学費を損益相殺さるべきであると主張する。
養育費、教育費の損益相殺の可否については議論のあるところであるが、当裁判所は積極に解する(東京地方裁判所昭和四〇年(ワ)第一一二一号昭和四四年二月二四日判決、判時五五〇号四二頁、判タ二三二号二八一頁参照)。そして、その額は原告章太郎の職業等諸般の事情を考慮すると、亮太郎の養育費(生活費)、教育費等の額は成人までの年月を平均して月五、〇〇〇円程度と見るのが相当である。そうすると年額六万円となり、右金額を基礎にして、原告らが亮太郎が二〇歳に達するまでに支出したでああろう総額の現価をホフマン式(複式、年別)で年五分の中間利息を控除して算出すると五一万円(一万円未満切捨、亮太郎の年令を九歳として計算した)となる。したがつて原告らは五一万円の支出を免れたことになり、その負担割合は、他に特段の事情の見るべきものもないので各二分の一とするのが相当であるから、結局原告らの損害額から控除すべき額は、各二五五、〇〇〇円となる。被告の抗弁は右の限度で理由がある。
(六) さらに、原告らは自賠責保険金として各一五〇万円、および原告章太郎は屍体検案料として一、四〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがない。
(七) (三)(四)従つて原告章太郎の損害額は右の合計二、九六三、三二〇円より、(五)(六)を控除した一、二〇六、九二〇円となり、原告アヤ子の損害額は(三)(四)の合計二、八六三、〇〇〇円より、(五)(六)を控除した一、一〇八、〇〇〇円となる。
(八) 原告らが本件訴訟提起に際し要し、かつ完結の際に支払わるべき弁護士費用のうち被告に対し賠償を求めることのできるのは原告章太郎において一二万円、同アヤ子において一一万円と認めるのが相当である。
四、よつて原告らの本訴請求のうち原告章太郎に対し一、三二六、九二〇円および内金一、二〇六、九二〇円に対し訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年七月三一日から完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金、原告アヤ子に対し一、二一八、〇〇〇円および内金一、一〇八、〇〇〇円に対する右同様昭和四三年七月三一日から完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九一条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(荒井真治)